10月29日の夜ニュージャージーに上陸した大型ハリケーン・サンディは、アメリカ東部に大きな被害をもたらしました。ニューヨーク市を襲った高波は4.2メートルに達し、65万人が停電の影響を受け、クイーンズ区では火災が起き50件が全焼しました。11月4日に開催予定のニューヨークシティ・マラソン、市長はまだ全体の被害状況がわからない30日のアナウンスでは、予定どおり開催するとしていました。
ニューヨークシティ・マラソンは1970年から毎年開催され、約4万人が参加するレースで、世界中からランナーが集まり日本からもツアーが組まれる程人気があります。コースはニューヨーク市の5区全てを通り、最後はセントラルパーク内を半周程走りゴールします。ハリケーンが去った後、沢山の木がなぎ倒されていたに違いありませんが、コース内の整備、横断幕やパーク内のゴール付近にもうけられた報道用の施設、仮設トイレなど急ピッチで復旧、準備が進められていました。
一方ハリケーン・サンディの残した爪痕は深く、マンハッタン南部の電力がほぼ回復したのは3日。スタート地点のスタテンアイランドの被害は大きく現在も電源は失われたままです。そんな中、報道用の強力な発電機を備え、スポーツ飲料をランナーに配り、警備にも多くの人員が必要なマラソンの開催に対して、市民からの反対の声が日に日に大きくなりました。そして開催日の2日前、ついに市と主催者は中止を決定しました。レースを開催するための労力や物資を復旧の為にまわす必要はなかったが、市民の対立が起きていることが明らかになり、それは復旧の速度を鈍らせる危険があると中止の理由を述べています。
約3億4千万ドル(約270億円)の経済効果があるとされるマラソン、911の年にも開催されたし、出来ればやりたいと主催者は願っていたと思いますが、さすがにまだ電気も復旧しておらず、必要な物資も不足している被災地でマラソンをやるのは少し無理があったようです。ギリギリまで頑張ったけどあきらめたということだと思いますが、現状を見れば中止されたのは当然のようです。
さて、気温は8度の快晴。マラソンも中止になったし久しぶりにセントラルパークを走ろうと午前中に出かけました。マラソン開催日のはずだった今日、多くのマラソンランナー達はニューヨークマラソンの参加者がもらえるオレンジ色のシャツを着て、物資の足りない被災地に走って物資を届けるというボランティアに参加するとのことでした。
ところが、公園に入るとパークドライブには道を埋め尽くす程多くのマラソンランナーがレースさながらに走っています。その格好からマラソンに参加する予定だった人達とすぐにわかりました。なんとコースの周りには応援する人や、飲みのもやキャンディーを配る人などで賑わっており、いたる所でベルを鳴らして「You look good today. Keep it up. Keep it up. You can do it」などと応援してくれます。「お父さん頑張って!」と書いたパネルを持って応援する子供や、バグパイプを吹いて応援する人、いろんな国の国旗も目にしました。
走っている人もニュージーランド、メキシコ、スイス、オーストラリアなど海外から来た人も沢山います。また、家族の写真がプリントされたシャツを来て走っている女性や、「Run for 〇〇(人の名前)」と書かれたシャツを着ているランナーなど、なにかそれぞれのストーリーを胸に走っている様子がうかがえました。なにしろマラソンを走るにはそれなりの時間を使ってトレーニングを重ね準備をしていたはずですし、抽選の倍率は高く数年かかってようやく権利を得たというランナーもいるはずです。まして海外からの参加となれば、もう2度とチャンスはないという人もいるかもしれません。走らずにはいられなかったのでしょう。
図々しくもそんな特別なイベントに紛れ込んで走ったのですが、最初は沿道の応援が照れくさくて目を合わせられなかったのに、次第に気分が良くなりそのうち笑顔で返していました。いつもの一周10キロを走ったのにニューヨークマラソンを走ったような気分を味わえました。マラソンなんて無理だろうと思っていましたが、沿道の人達に応援されながら沢山のランナーと一緒に走るんだったら、それはさぞかし楽しそう。
マラソンは中止になりましたが、集まったランナーにとっては忘れられない思い出になったことでしょう。
来年はマラソンを走る?
ハリケーン・サンディで受けた被害からの復旧のための寄付とボランティア情報
CBS NYの情報:Where To Donate Or Volunteer To Sandy Relief Effort
NYC.gov Hurricane Sandy Relief
黒部エリぞうのNY通信:台風サンディの爪あとと、ボランティア情報